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事件

  • posted at:2015-10-29
  • written by:砂月(すなつき)
じけん
松竹
配給:松竹
製作年:1978年
公開日:1978年6月3日
監督:野村芳太郎
製作:野村芳太郎 織田明
原作:大岡昇平
脚本:新藤兼人
撮影:勝又昻
美術:森田郷平
音楽監督:芥川也寸志
作曲・演奏:松田昌
録音:山本忠彦
調音:松本隆司
照明:小林松太郎
編集:太田和夫
スチール:赤井溥旦
監督助手:大嶺俊順
装置:川添善治
装飾:磯崎昇
衣裳:松竹衣裳
擬斗:上野隆三
法廷考証:熊谷弘
現像:東洋現像所
進行:平田一夫
製作主任:吉岡博史
出演:丹波哲郎 芦田伸介 大竹しのぶ 永島敏行 松坂慶子
アメリカンビスタ カラー 138分

神奈川県厚木市土田町の山林で若い女性の刺殺死体が発見された。数日後、神奈川県警は横浜市に住む19歳の木下造船所工員・上田宏を逮捕したが、殺害された坂井ハツ子が彼とアパート・光風荘で同棲している妊婦・ヨシ子の姉であることから、マスコミがいち早く嗅ぎ付け飛びついたのだった。横浜地方裁判所で第一回公判が行われ、谷本裁判長による人定質問のあと岡部検事による起訴状の朗読が行われた。それは被告人の宏が妊娠したヨシ子と誰にも知られずに同棲する計画をハツ子に気付かれたことから、彼の父・喜平やヨシ子の母・すみ江に知られる前に殺害を企てたというものだった。昭和52年3月28日午後2時ごろ、菊一商店にて歯渡8.5センチの登山ナイフを購入。午後3時半頃、知り合いである長後モータースの店頭で引っ越し荷物運搬用の軽トラックを賃借の交渉中にハツ子が偶然通りかかったことで殺害を決意。実行に移すために彼女を自転車の後ろに乗せ、土田町相模川近くの人気のない場所へ連行するとナイフを突き刺した。胸部第五肋骨と第六肋骨の間に深さ6センチの心臓に達する傷が原因となり出血多量で死亡した。その犯行を隠匿するために遺体を5メートル引きずり、大村吾一が所有する杉林に突き落とした。岡部が読み上げた起訴状について、ここでの証言は有利なことも不利なことも証拠にされるから注意するようにと谷本が助言すると宏はゆっくりと頷いた。彼は重い口を開き、ハツ子を殺したのは起訴状のとおりだが、ナイフは引っ越しのために購入した物であり殺すために用意したのではないと断言した。そしてすみ江に言いつけるというハツ子を脅して止めさせるためにナイフを出したが、殺すつもりはなかったものの自分がやったことは確かなので死刑になっても仕方がないと言った。その後、検察官による冒頭陳述が行われ、事件の具体的な説明が終わると岡部は宏の自宅に停めてあった自転車と犯行に使われたナイフ、刺されたときに出来た穴とその周辺に血痕が付着したハツ子のワンピースを提示した。すると宏は目をそらしながら認めた。

土田中学で担任だった花井は宏が事件を起こしたことに責任を感じていた。彼は環境が青少年の道徳を退廃させているという持論を持っていた。厚木周辺の町村は米軍基地の影響が大きく、以前農家をしていたが宏の家も今は申し訳程度に野菜を作って土地の値段が上がるのを待っている。喜平は妻の死後一年も経たないうちに鶴巻温泉の芸者を妾にする。それらが宏に悪影響を及ぼしたと考えていた。弁護を担当した菊地は花井の父親と知り合いだったことで引き受けたが、彼は拘置所で会った宏の印象から自白に疑いを感じていた。そこで菊地は、ハツ子が経営していたスナック・カトレアの客から出た二人の証人の身辺調査を花井に頼んだ。一人は長後に住むヤクザの宮内辰造、そしてもう一人は相模川の護岸工事現場の労務者・多田三郎だった。その頃、冒頭陳述に使用した調書の「白いジャンパーに血が飛び散らぬように」という部分に不自然さを感じていた岡部は、取り調べを行った捜査検事の山崎に問い合わせをしていた。

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バネ式

  • posted at:2015-10-23
  • written by:砂月(すなつき)
ばねしき
バネ式制作委員会=吉田照美事務所
配給:バネ式制作委員会
製作年:2002年
公開日:2002年5月11日
監督:吉田照美
制作:岩元幸子 仲野直美
プロデューサー:吉田照美 江平好宏
アシスタントプロデューサー:川船修 都丸雅明
演出:金子一平 加藤義一
原案:つげ義春
脚本:吉田照美 樫原辰郎
撮影:西村聡仁 渋田健司 鈴木一博 中島大介
空撮:山内一睦 山内大助 山内昭臣 山内真吾
VE:諸星正行 磯西信広
ヘア&メイク:永野久美 吉田智子 福岡千夏
編集:田村進
MA:武田正人 村井宏志
音響効果:伊東瑞樹
童謡効果:西川耕祐
音楽効果:坂本哲也 今野亮
CG:平野哲
エンディングテーマ:「エリーゼのために」井上陽水
製作協力:文化放送 アミューズ M&M COMPANY
出演:原武昭彦 乙葉 吉田照美 太田英明 寺島尚正
スタンダード カラー 73分

サラリーマンの「男」の悩みは、時と場所を選ばない突然の頭痛だった。それはまるで頭の奥に鋭い物が突き刺さってくるような何とも言えない感覚で、時々奇妙な風景が見えるのだ。痛みは最近激しくなっており、いつ襲ってくるかわからない不安がいつも付きまとっていた。さらに携帯電話やパソコンからの電磁波が頭に影響を与えているという話を同僚から聞いたこともそれを増幅させていた。帰り道、またあの頭痛が襲うと目の前には見たことがあるような、ないような、懐かしいような風景が広がっていた。彼はいつの間にか帰宅していたが、その家が何処で、目の前に立っているのが妻であることも記憶になかった。

翌日、「たまの休日なんだから散歩にでも行って来たら」と妻らしい人物に言われた男は言うとおりに出かけた。彼女といつ結婚したのか覚えていない。生まれ育った街だがいつもと違って見える。そしていつも見えるあの風景はいったい何だろうか。そんなことを考えながら歩いていると、体は自然と薬屋の前で止まった。中に入ると老婆が一人。頭が痛いことがわかると彼女はそばにあったルーペを手に取り男の頭を覗いた。すると頭に電磁波が何本も突き刺さっていたのだ。それを治すには電波のお医者さんに診てもらわなければならないと老婆に言われたことから、男は直感的にラジオ局へ行くことにした。受付嬢にそのことを話すと、彼女は総務の男に内線電話をかけ、頭に電波が刺さっているというリスナーからの問い合わせを受けていると説明した。すると総務の男は第一応接室に通すように言い、電話を切るとついにこういうときがやってきたかと呟いた。男は受付嬢について行ったが、館内の同じ場所をグルグルと回るばかりで一向に応接にたどり着かなかった。その疑問を口にすると、うちの会社は小さくて廊下が迷路のようになっていることから堂々巡りしているような気になると言った。説明を聞いても納得が行かない顔をしている男の顔を見た受付嬢は、私が嘘をついていると言うんですかと不機嫌になりながらも歩を進めた。だが結局彼らがやってきたのは玄関の近くにあるエレベーターだった。エレベーターに乗ると受付嬢はエレベーターガールとなりアナウンスを始めた。そんな彼女と所帯を持った妄想を男は頭の中で思い描いた。

やがてエレベーターは目的の階に着き、受付嬢は男を第一応接室に通すとここでしばらく待つように言った。やがて総務の男が現れ、男は電波のお医者さんを探しているのでいい医者を教えてほしいと懇願した。すると会話の最中に再び頭痛が襲い、驚いた総務の男は慌てて部屋を出て行った。気絶した男は再び見たことがあるような、ないような、懐かしいような風景を目撃し、探さなければいけない衝動にかられた。だが何を探していいのかわからなかった。

屋台的映画館

怪猫呪いの壁

  • posted at:2015-10-20
  • written by:砂月(すなつき)

かいびょうのろいのかべ
大映(京都撮影所)
配給:大映
製作年:1958年
公開日:1958年6月15日 併映「白蛇小町」
監督:三隅研次
製作:酒井箴
企画:財前定生
脚本:民門敏雄 岡本繁男
撮影:相坂操一
録音:奥村雅弘
音楽:高橋半
照明:中岡源権
美術:太田誠一
編集:西田重雄
邦楽:中本利生
製作主任:田辺満
装置:三輪良樹
装飾:中島竹次郎
背景:北條三郎
美粧:湯本秀夫
結髪:石井エミ
衣裳:黒沢好子
擬斗:宮内昌平
記録:梶谷美子
普通写真:松浦康雄
助監督:土井茂
撮影助手:森田冨士郎
録音助手:近藤正一
照明助手:上里忠男
音響効果:倉島暢
移動効果:村若由春
演技事務:竹内次郎
進行:吉岡徹
出演:勝新太郎 浦路洋子 近藤美恵子 村田知英子 舟木洋一
シネマスコープ モノクロ 73分

最愛の妻・環を一年前に失い悲しみに暮れる和泉国の藩主・前田大和守利光は、敷地内に霊を祀るための廟を建てることにした。そんな利光の心を慰めていたのは、一子・信千代の世話をする腰元の志乃だった。そうとは知らない中老の五月は側用人の田所典膳と結託し、大願成就の第一歩として腰元の夏江を寝所に送り込んだ。だが美貌の夏江を以ってしても利光の心を動かすことは出来なかった。五月は田所との密会場所として使用している完成間近の霊廟に夏江を呼び出し失敗を質した。すると夏江は殿の身の回りの世話をしているところを志乃が横合いから邪魔したと嘘をつき、それを信じた五月は志乃を始末する企みを田所と行った。そのとき黒猫が霊廟の壁を突き破って飛び出したのだった。

利光の代理として環の墓参りを任せられた志乃は、そのついでに兄・竹内喬之助が開く道場に立ち寄った。小野派一刀流の使い手である喬之助だったが、生活はだらしなく汗臭い着物が押し入れに突っ込まれていた。山のような洗濯物を片付けようとした所へやってきたのは、いつも彼の世話を焼く梢だった。その頃、利光の屋敷では信千代が講義を受けていたが、そばに志乃がいないことで気が散っていた。ふと庭に目をやると廊下に置いていた鳥かごに黒猫が近づき、小鳥を狙おうと構えていた。怒った信千代は後を追ったが逃げ足の速い黒猫には敵わなかった。するとその様子を見ていた五月がいとも簡単に捕まえ、信千代に手渡したのだった。そこに帰ってきた志乃は、折檻しようとする信千代にこの猫が環の飼っていた黒姫だからやめるようにと諭した。そして五月に同意を求めたが、彼女はそんな野良猫を見たことがないし似たような猫はいくらでもいるとしらばくれた。諦めようとしない信千代を説得しようとした志乃だったが、やり取りをしているうちに黒姫が逃げてしまい、信千代の機嫌はますます悪くなった。戸惑う志乃に声を掛けた利光が代参の様子を聞きたいと屋敷へ連れて行くと、五月はそれを苦々しく見送った。

将軍家の日光参拝に仕えることになった利光は、その前日に酒席を設けた。すると五月が旅先での世話を夏江にさせることを提案し、酌をさせようとした。そのことが癪に障った利光は風に当たりたいと部屋を後にし、志乃に同藩の渥美郁次郎が推挙した喬之助を指南番にすると言った。喜ぶ彼女に利光はわしからも頼みがあると言い、信千代の母になって欲しいと告白した。それを聞いた志乃は恐れ多いと驚きを隠せなかった。翌日、志乃の悩みを聞いて郁次郎との婚姻の約束を破ることがないことを確認した喬之助は、利光が旅から帰ってから全て話して辞退しろと助言した。その夜、霊廟にいた郁次郎に志乃が相談を持ち掛けると、一日も早くあなたと祝言を挙げたいから殿に口添えすると約束した。するとそこに五月の息がかかった者たちが現れ、不義者として二人を斬殺しようとしたのだ。郁次郎は何とか逃げ果せたが、志乃は命を落とした。遺体の始末に困って霊廟の壁の中に隠そうとすると、何処からともなく現れた黒姫が志乃を守ろうと壁の隙間に飛び込んで威嚇を始めたのだ。怯えた田所は猫と一緒に塗り込んでしまえと手の者に命じた。

屋台的映画館

ゴジラの逆襲

  • posted at:2015-10-12
  • written by:砂月(すなつき)
ごじらのぎゃくしゅう
東宝
配給:東宝
製作年:1955年
公開日:1955年4月24日 併映「弥次喜多漫才道中 化け猫騒動の巻」
監督:小田基義
製作:田中友幸
原作:香山滋
脚本:村田武雄 日高繁明
撮影:遠藤精一
美術監督:北猛夫
美術:安倍輝明
録音:宮崎正信
照明:大沼正喜
音楽:佐藤勝
音響効果:三縄一郎
特殊技術:渡辺明 向山宏 城田正雄
監督助手:岩城英二
編集:平一二
現像:東宝現像所
製作担当者:馬場和夫
特技監督:円谷英二
出演:小泉博 若山セツ子 千秋実 志村喬 清水将夫
スタンダード モノクロ 82分

海洋漁業の水上機Kー105パイロット・月岡正一は、上空からカツオの群れを発見すると本社に無線連絡し、同社所属の漁船・第三國竜丸を誘導した。その頃、月岡の同僚・小林弘治が操縦する水上機Kー104のエンジンが停止し岩戸島付近に不時着した。無線係・山路秀美からの連絡を受けて救助に向かった月岡は、機体と小林の姿を確認すると救援のために着水した。濡れた体を温めるために焚き火で暖を取っていると、突然巨大な獣の咆哮が辺りに鳴り響いた。岩の隙間に隠れた二人は、それが日本を恐怖に陥れたゴジラであることに驚いたが、そのゴジラが見たこともない恐竜と戦っていることでさらに驚いたのだった。二頭がもんどりうって海中に墜落すると、月岡たちはその隙を見て逃げ出したのだった。

大阪市警察本部にゴジラ対策本部が置かれ、呼び出しを受けた月岡と小林は古生物学者の田所博士が提示した資料の中から目撃したもう一頭の恐竜を見つけ出す作業を行っていた。そして二人が写真を指差したのが、今からおよそ七千万年前から一億五千万年前に地球を横行していたアンキロサウルス、通称アンギラスだった。アンギラスは多種の生物に対して徹底的な憎悪を持つ好戦的な肉食の暴竜で、脳髄が胸部や下腹部等に分散していることで巨大な体躯にも拘らず敏捷に行動することが可能だった。想像していたあらゆるものの中で最も悪いことが起きたと田所が東京から駆け付けた山根恭平博士に告げると、彼は無言で深く頷いた。田所はアンギラスがゴジラの背後から奇襲したところを月岡たちが目撃したことに触れ、恐竜はアンギラスと認めざるを得ないと結論付けた。続いて警視総監がゴジラ対策について話を求めると、山根はゴジラを防ぐ方法は一つもないと言った。ゴジラを葬り去った唯一の手段である水中酸素破壊剤「オキシジェン・デストロイヤー」の開発者である芹沢大助博士が大量破壊兵器として利用されることを恐れて研究資料をすべて焼却処分し、ゴジラと命をともにしたことで再び完成させることが困難になっていたからだ。第二のゴジラとともに現れたアンギラスの脅威から逃れるには、まず二頭の現在地を把握して上陸地点を予知すること。そして同時に付近の住民を退避させ完全なる灯火管制を行うことを山根は提言した。ゴジラは水爆実験により光に対して非常に敏感なことから、その習性を利用して遠い海洋へおびき出すしか選択肢がなかったのだ。

海洋漁業の一室に役員と社員が集まり、ラジオからの情報に耳を傾けながらゴジラの行方に気を揉んでいた。四国紀伊水道沿岸に上陸する公算が大きくなっていたからだ。その場合、会社にとって一番大事な漁区を失うことになり、工場の生産高に甚大な影響を及ぼすのだ。だがゴジラは進路を変えたことでその心配は去った。その夜、月岡はいつもと変わらない繁華街に秀美を連れ出しダンスホールで至福のひと時を過ごしていたが、突如場内に流れたアナウンスでそれは終わった。ゴジラが突如進路を変え、大阪湾内に進入しつつあるという対策本部からの発表が伝えられたのだ。ダンスホールは忽ちパニックに陥った。

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真夜中の招待状

  • posted at:2015-10-08
  • written by:砂月(すなつき)
まよなかのしょうたいじょう
松竹
配給:松竹
製作年:1981年
公開日:1981年9月26日
監督:野村芳太郎
製作:野村芳太郎 野村芳樹
原作:遠藤周作
脚本:野上龍雄
撮影:勝又昻
音楽:菅野光亮
美術:森田郷平
録音:山本忠彦
調音:松本隆司
照明:小林松太郎
編集:太田和夫
スチール:赤井溥旦
監督助手:山田良美
製作主任:福山正幸
装置:川添善治
装飾:磯崎昇
衣裳:松竹衣裳
現像:東洋現像所
進行:小松護
スタイリスト:金子初美
ヘヤーメーク:フロム・ニューヨーク
スタントマン:ジャパンアクションクラブ
出演:小林麻美 小林薫 高橋悦史 米倉斉加年 宮下順子
アメリカンビスタ カラー 125分

精神科医・会沢吉男を一人の女性が訪ねた。彼女は稲川圭子といい、フィアンセ・田村樹生のことで相談があるというのだ。気になった会沢はじっくりと話を聞いてみることにした。ひと月前のこと、樹生は水戸に住む次兄・和生から沼津の三兄・捷平が蒸発したという話を電話で知り真っ青になった。翌日、和生の行きつけのバーで圭子と樹生が待っていると、沼津で詳細を聞いた和生が現れた。真夜中にふらりと出て行ったことに隣で寝ていた妻も気づかなかったのだという。気の弱い捷平が人から恨みを買うとは思えず、新婚ということで女性関係は考えられないと和生がいうと、兄さんは大丈夫だろうなと樹生が心配した。熊本に住んでいた長兄・順吉も七年前に同じように姿を消したのだ。和生は、俺が万が一蒸発するようなことがあったら、残された者が心配しないように事情を知らせてやると約束した。そして圭子に、二人の婚約を祝福していることを前置きして、今回の件は単なる偶然で兄弟の中におかしな血が流れているなどと考えないで欲しいとお願いした。だが仲のいい和生でさえも樹生に何も知らせずに蒸発したのだ。それ以来、次は自分の番だと思い込んだ彼はノイローゼになり、部屋に鍵をかけて閉じこもるようになった。神経科の病気に罹った者が家系にいないことを圭子に確認した会沢は、本人に納得させることを条件に診察することにした。

樹生に診察を承知させた圭子は会沢と再び会った。彼女が用意してきた紙には簡単な家系図が書いてあり、それを受け取った会沢は眉をひそめた。原田姓の中で樹生だけ苗字が違うことを尋ねると、圭子は子供がいない伯母のもとへ養子に行ったことを説明した。稲川邸で診察を行うことになった会沢は、薄暗い部屋で樹生から話を聞き出すことにした。彼は小学校三年生のときに熊本の実家から養子として東京の田村家にやってきた。それから間もなく父親が亡くなり、既に母親が亡くなっていたこともあって熊本へ帰ることはなかった。兄弟との交際について尋ねると、疎遠になっていた順吉と捷平とは違い、東京の大学に進学したことで頻繁に会うことになった和生だけが肉親だと感じるようになったと答えた。その信頼していた兄が蒸発したことで強いショックを受けていたのだ。ある真夜中、電話のベルが鳴り、目覚めるとすぐに止んだ。何度かあったが、それが現実か幻聴かわからなかった。不安神経症だと診断した会沢は、三人が蒸発した原因を突き止めてあなたの精神的不安を取り除くために、枕元にメモを置いて夜中に見た夢や心に浮かんだ全てを書き留めてくださいとお願いした。ダーン博士の学説によれば、人間は近い将来に起こることを夢で予見する本能があるというのだ。それを聞いた樹生は和生から失踪前にもらった手紙のことを思い出し、会沢に読み聞かせた。そこには夢のことが書かれていた。

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