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ずべ公番長 夢は夜ひらく

  • posted at:2016-09-29
  • written by:砂月(すなつき)
ずべこうばんちょうゆめはよるひらく
東映(東京撮影所)
配給:東映
製作年:1970年
公開日:1970年9月22日 併映「昭和残侠伝 死んで貰います」
監督:山口和彦
企画:吉峰甲子夫
脚本:宮下教雄 山口和彦
撮影:仲沢半次郎
録音:小松忠之
照明:川崎保之丞
美術:北川弘
編集:長沢嘉樹
助監督:深町秀熙
擬斗:日尾孝司
進行主任:志村一治
企画担当:高村賢治
装置:石井正男
装飾:武井正二
記録:宮本衣子
現像:東映化学
協力:ジェームス・川田(アクセサリーデザイナー)
音楽:津島利章
主題歌:「圭子の夢は夜ひらく」藤圭子
挿入歌:「命預けます」藤圭子
出演:大信田礼子 橘ますみ 賀川雪絵 藤圭子 谷隼人
アメリカンビスタ カラー 81分

東京少年鑑別所が東京練馬区にあることで「ネリカン」という俗称があることから、非行少女たちの矯正機関・赤城女子学園も「女ネリカン」と蔑まれていた。傷害で逮捕された「ハマグレのおリカ」こと影山リカは仮卒園後にクリーニング店に勤めるようになったが、客から預かったスーツ一着が店から紛失したことで彼女に嫌疑がかかった。主人の桂木は様子を見ようとしたが、女将の鎌子は端から犯人だと決めて掛かり頭ごなしに怒鳴ったのだった。結局は店員の仕訳ミスだったことがわかり疑いは晴れたが、リカの心にあるわだかまりは溶けることはなかった。その夜、床板の軋む音が聞こえたことで桂木が夜這いにきたことがわかると、リカは寝たふりをした。そして体に手が掛かると大声を出して鎌子が来るのを待ち、夫婦の関係をかき回してから店を辞めたのだった。

都会の空気を吸いに新宿駅へとやってきたリカに声を掛けてきたのは、しつこくつきまとう丸井綱夫という冴えない男だった。顔を貸せといちゃもんをつけてきたゴロマキを叩きのめしたことで、男前な性格とグラマーな容姿に惚れ込んだ綱夫はリカを喫茶店に連れて行くとご飯を奢った。そして彼女が行くところがないと知ると名刺を渡した。そこにはバー紫の渉外部長と書いてあったが、その肩書は名ばかりで駅前でのホステスのスカウトから皿洗いまで何でも担当していた。綱夫はママの南雲梅子にリカが銀座の高級クラブで勤めていたと嘘をついて働かせようとしたが、彼の妻・八尾長子が入ってきたことで目論見が外れた。リカと長子は赤城の仲良しな同級生なのだ。驚く綱夫を尻目に、梅子は自分が彼女たちの先輩だと笑った。この店のホステスなどはみな赤城出身者ばかりなのだ。彼女たちは個性派ぞろいで、麻薬中毒の妹・バニーを持ち彼女のために働く冬木マリは金で純ナマを売ったりしないと客前で啖呵を切り、千本ミツ子その名と違って千に三つも本当のことを言わない嘘つきで舌先三寸で客を丸め込んだ。湯島つたは飲んだら手に負えない大トラで、はるみはネリカンで女にされたオカマ、この店にやってくる流しの圭子はプロ級の歌声を持っていた。

その夜、店にやってきたのは大羽興業の社長・大羽金造だった。金造はこの店を潰してビルを建設し、その一室に梅子の店を用意する算段だったが、彼女は父の唯一の遺産である店を手放す気はなかった。それを聞いた金造は、この街では俺と手を組んだ方が利口だということを思い知らせてやると言った。

屋台的映画館
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モスラ(1961年)

  • posted at:2016-09-23
  • written by:砂月(すなつき)
もすら
東宝
配給:東宝
製作年:1961年
公開日:1961年7月30日 併映「アワモリ君売出す」
監督:本多猪四郎
製作:田中友幸
原作:中村真一郎 福永武彦 堀田善衛
脚本:関沢新一
撮影:小泉一
美術:北猛夫 安倍輝明
録音:藤縄正一 宮崎正信
照明:高島利雄
音楽:古関裕而
挿入歌:「インファントの娘」ザ・ピーナッツ
振付:県洋二
監督助手:野長瀬三摩地
編集:平一二
現像:東洋現像所
製作担当者:森田信
特殊技術・撮影:有川貞昌
特殊技術・美術:渡辺明
特殊技術・照明:岸田九一郎
特殊技術・作画合成:向山宏
特殊技術・光学撮影:真野田幸雄 
特殊技術・制作担当者:成田貫
特技監督:円谷英二
出演:フランキー堺 小泉博 香川京子 伊藤ユミ 伊藤エミ
シネマスコープ カラー 101分

カロリン群島で発生した台風8号。瞬間最大風速が80メートルにも及ぶ超大型台風は毎時50キロのスピードで日本に向かって北上していた。松菱海運の貨物船・第二玄洋丸が渦中にいたことから、船舶協会は第七管区海上保安本部に対し救援を要請した。その頃、第二玄洋丸はロシリカ国の原水爆実験場となっているインファント島の海岸付近に流され座礁した。この一帯は放射能の汚染地域であることから生存者は絶望視されていたが、海上保安庁の救難ヘリがK岬の海岸で4名の遭難者を発見した。巡視船さつまに救助され国立総合核センターに運ばれた遭難者を調べたところ、不思議にも放射能の汚染症状が発見されなかった。そこで原田博士は直接彼らに問診を行ったが、特に変わったことは感じられないという答えが返って来た。そのとき光が閃き、それがカメラのフラッシュだとわかると院長はフィルムを出すように言った。カメラの主は日東新聞の花村ミチで、社会部記者の福田善一郎とともに関係者に紛れていたのだ。呆れた原田が何を聞きたいのかと尋ねると、致死量の放射能の中からどうして奇跡の生還が出来たのかと福田は逆に尋ねた。すると遭難者の一人が口を開き、原住民が飲ませてくれた赤いジュースのおかげかもしれないと言った。

無人島と言われていたインファント島に原住民が住んでいるという特ダネをスクープし意気上がる天野貞勝社会部長は、夕刊の一面にこの記事を載せることを決め、善一郎にロリシカ大使館で行われる大使の談話を取るよう命じた。大使はインファント島に原住民がいないことを調査、確認して実験場としているため、調査隊を派遣する必要はないとした。だが突然前言を撤回して日ロ合同調査隊を派遣することになったため、善一郎は参加することになっている言語博士・中條信一の自宅を訪ねた。ところが中條は写真を撮られることをひどく嫌い、ミチからレンズを向けられると新聞紙で顔を隠し適当な意見を言って早く帰らせようとしたのだった。そこで善一郎は撮影しないことを条件にして取材を行った。ポリネシア海域の少数民族間には言語、風俗、習慣に共通点があり、その要因はポリネシア一帯はその昔大陸だったのではないかという仮説を話すと、ミチは怪訝な顔をした。そしてカメラから覗いた現実しか信じないと言った。

合同調査団が出発することになったが、ロリシカ国事務局長のクラーク・ネルソンは報道関係者の乗船を禁じた。さらに調査資料はネルソンが一括して処理することになっており、原田と中條は彼に不信感を抱いた。抗議するために中條がネルソンの部屋へ行くと、使用人として忍び込んだ善一郎に銃口が向けられていた。何か用かと言われた中條は、調査資料全てを提出することはロリシカ政府の意向かと尋ねた。そして調査隊の希望だと知ると、ひと言断ると言い残して善一郎を連れ出したのだった。原田はネルソンと話し合い、記者活動を行わないことを条件に善一郎を臨時の警備員として乗船させることを承諾させた。

屋台的映画館

八つ墓村(1977年)

  • posted at:2016-09-17
  • written by:砂月(すなつき)
やつはかむら
松竹
配給:松竹=富士映画
製作年:1977年
公開日:1977年10月29日
監督:野村芳太郎
製作:野村芳太郎 杉崎重美 織田明
原作:横溝正史
脚本:橋本忍
撮影:川又昻
美術:森田郷平
音楽:芥川也寸志
録音:山本忠彦
調音:吉田庄太郎
照明:小林松太郎
編集:太田和夫
スチール:小尾健彦
効果:東洋音響
監督助手:大嶺俊順
製作主任:吉岡博史
装置:川添善治
美粧:三岡洋一 小林成吉
装飾:磯崎昇
進行:福山正幸
イマジニスト:山口はるみ
特殊メーク:マキシーン・坂田
殺陣:菊地剣友会
スタントマン:JAC
方言指導:日笠潤三
神楽曲:小泉文夫
振付:花柳滝蔵
時代考証:柳生悦子
備中神楽:成羽社中
動画:東京アニメーションフイルム
かつら:八木かづら店
現像:東洋現像所
衣裳:松竹衣裳
監督助手:伊藤聚 鈴木敏夫 松原信吾
撮影助手:坂巻佐平 木村隆治 今村正雄 松田光弘
録音助手:鈴木正男 田中進
照明助手:若林広三 山下孝充 田代保 藤田繁夫 高橋義男 市橋重保
編集助手:中西正義 渡辺松男
美術助手:浦山芳郎
装置助手:山田与四郎 石川鎮男
装飾助手:鈴木章司
衣裳:鈴木康之 原島正男
製作進行助手:鞠子政已
製作助手:斉藤守恒
協力:日本航空 AGS空港グランドサービス
サントラ盤:ビクターレコード
衣裳協力:ぎんざ新松 
撮影協力:岡山県・満奇洞 山口県・秋芳洞 景清洞 大正洞 岩手県・滝観洞 高知県・龍河洞 沖永良部島・水連洞 昇竜洞
出演:萩原健一 小川真由美 山崎努 山本陽子 市原悦子
アメリカンビスタ カラー 151分

羽田空港で航空機誘導員として働く寺田辰弥は、上司から新聞に尋ね人として載っていることを聞き、連絡先となっている大阪市東区の諏訪法律事務所を訪ねることにした。事務所では奥のソファーで老人が見守る中、諏訪弁護士が辰弥に対し生い立ちなどの質問を矢継ぎ早に行い、最後に裸になるように言った。背中に大きな火傷の痕があったことで本人と断定すると、諏訪は辰弥に老人を紹介した。彼は辰弥の母方の祖父・井川丑松で、生まれ故郷である岡山県の村に戻ってもらうために迎えに来たというのだ。諏訪が気を利かせて席を外すと、丑松はあまりのうれしさに嗚咽した。辰弥は落ち着かせようと老人をソファーに座らせたが、突然苦しみ始め血を吐いて死んだ。辰弥の身元引受人となったのは父方の親戚筋の未亡人・森美也子で、容疑が晴れた彼を北浜警察署で引き取ると丑松の家族に合わせることにした。これも何かの縁だと考えていた辰弥もそのつもりで、会社に一週間程の休暇を願い出ていた。

丑松は資産家である多治見家の使いで、美也子がその代役となったのは商用で神戸に来ていたことが理由だった。伯備線の備中神代駅で迎えの車に乗り換えると美也子は高台で停めさせ、辰弥に村の説明をした。彼らが向かう先は鳥取県との県境にある阿哲郡三田村で、一部を除くその一帯が多治見家の所有する山だった。そして2,3年前の町村合併で名前が変わる前までその地域は「八つ墓村」と呼ばれていた。車中で村には昔からのしきたりや習慣が残り、古い多治見家には腹違いのきょうだいがいることを美也子から聞くと、辰弥は子供の頃から一人で暮らしていたので今更義理のきょうだいと会ってもうまくやれる自信がないと言った。そもそもこの土地に住みつく気など最初からなく、葬式が終わったら東京に帰るつもりでいたからだ。辰弥は母・鶴子の連れ子で、彼が3、4歳の頃に再婚した。小学校三年生のときに鶴子が亡くなったことと、新しい母親に弟や妹が生まれたことで気まずさを感じるようになり、高校を卒業と同時に家を出たのだった。

多治見家に着いた辰弥を出迎えたのは長女の春代だった。彼女は二人を小竹と小梅の老姉妹に合わせると食事会を開いた。小竹は多治見家の当主で辰弥の兄に当たる久弥の具合が良くないことを伝え、小梅は春代が子宮筋腫で子供を産めなくなったために戻されたことを話した。頼りになるのはお前しかいないと言われたが、辰弥は返事を濁した。離れに通された彼は壁に掛けてあった龍の掛け軸を見てあることを思い出した。「龍のアギト」について美也子と春代に尋ねてみたが、鍾乳洞の名前かもしれないということしかわからなかった。そこは辰弥が産まれた場所だと鶴子に教えられていた。

屋台的映画館

宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海

  • posted at:2016-09-12
  • written by:砂月(すなつき)
うちゅうせんかんやまとにいちきゅうきゅうついおくのこうかい
宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会(プロダクション I.G=バンダイビジュアル=ジーベック=バンダイ=バンダイナムコゲームス=ボイジャーエンターテインメント=東北新社=松竹=オー・エル・エム=ランティス=MBS)
配給:松竹
製作年:2014年
公開日:2014年10月11日
構成:森田繁 加戸誉夫
ディレクター:加戸誉夫
編集:小野寺絵美
監修:出渕裕
ナレーション:小野大輔 桑島法子
ナレーション原稿:森田繁
アニメーションスタッフ:結城信輝 前田明寿 
アシスタントディレクター:中野剛
CG制作協力:サンライズD.I.D.
CGディレクター:今西隆志
エンディングイラスト:むらかわみちお
音響監督:吉田知弘
音響効果:西村睦弘
オープニングテーマ:「宇宙戦艦ヤマト」ささきいさお
エンディングテーマ:「BLUE」水樹奈々
音楽:宮川彬良 宮川泰
声の出演:菅生隆之 小野大輔 桑島法子 鈴村健一 大塚芳忠
アメリカンビスタ カラー 131分

西暦2191年、人類は史上初めて地球外知的生命体「ガミラス人」と接触した。友好関係を試みた地球に対し、ガミラスは一方的に戦端を開くと情け容赦のない無差別攻撃を仕掛けてきた。第二次火星沖海戦・カ2号作戦で強大な軍事力を誇る彼らの艦隊の直接攻撃を食い止めることが出来たが、地球は遊星爆弾によるロングレンジ爆撃を受けたことで大気は汚染し海は干上がった。人類は地下都市を築いて生き延びるしかなかったが、死の影は着実に迫っていた。

科学者が地球滅亡までおよそ1年と発表した2199年1月、冥王星に基地を置くガミラスに対し国連宇宙軍は残存する全艦隊を集結して総攻撃を行った。だがその真の目的は、「アマテラス」と暗号名がつけられた宇宙船を太陽系に招き入れるための陽動作戦・メ号作戦だった。その宇宙船が火星に墜落したことから、回収要員として派遣されアルカディアポート跡付近に待機していた古代進と島大介が調査を行った。乗員の女性には生命反応がなかったことから、大事そうに抱えていたカプセルのみを回収した。

国連極東管区に待機を命じられた古代と島だったが、艦上戦闘機コスモゼロに魅せられ勝手に出撃した。その際、敵偵察機を発見したため迎撃を試みたが武装されておらず逃げられてしまった。さらにシステムエラーが発生しやむなく胴体着陸を試みた。救助を待つ二人が丘を登ると、目の前には大昔の戦争で海の底に沈んだ戦艦が赤く朽ち果てた状態で顔を出していた。そこは九州・坊ノ岬沖だった。

会場に集められたのは特殊任務の訓練を受けてきたイズモ計画の選抜メンバーだった。そして壇上に立っていたのはメ号作戦でただ一隻帰還した戦艦きりしま艦隊司令の沖田十三宙将だった。沖田はメンバーに対し正式な任務を発表したが、それは限られた人々を地球から脱出させるイズモ計画ではなかった。最初に回収したカプセルには映像と音声メッセージが記録されており、そこにはイスカンダルの王女・スターシャがガミラスの攻撃で破滅の危機を迎えている地球を哀れみ、次元波動エンジンの設計図を妹のユリーシャに託したことが綴られていた。イスカンダル星には汚染を浄化し惑星を再生させるシステム「コスモリバースシステム」があるが、スターシャはそれを地球に届けることが出来なかった。そこで彼女は新たに次元波動エンジンの起動ユニットである波動コアをもう一人の妹のサーシャに預けたのだが、それが古代たちが回収したカプセルだった。国連は技術供与を受けたことで既に次元波動エンジンを搭載した恒星間航行用の宇宙船「ヤマト」を完成させていたが、それを察知したガミラスは坊ノ岬沖に偵察機を派遣したのだ。イスカンダル星は地球から遥か約16万8千光年彼方の大マゼラン銀河にあり、人類にとって未知の航海となる。だが滅亡へのカウントダウンが始まっている地球を救うには躊躇わずに進むしかないのだ。

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血を吸う薔薇

  • posted at:2016-09-06
  • written by:砂月(すなつき)
ちをすうばら
東宝映像
配給:東宝
製作年:1974年
公開日:1974年7月20日 併映「急げ!若者」
監督:山本迪夫
製作:田中文雄
脚本:小川英 武末勝
撮影:原一民
美術:藤谷和夫
録音:矢野口文雄
照明:森本正邦
音楽:真鍋理一郎
編集:池田美千子
合成:三瓶一信
スチール:石月美徳
監督助手:小栗康平
整音:東宝録音センター
効果:東宝効果集団
現像:東京現像所
製作担当者:広川恭
出演:黒沢年男 田中邦衛 佐々木勝彦 岸田森 望月真理子
シネマスコープ カラー 83分

聖明学園で心理学を教えるためにやってきた白木は甲斐小泉駅に降り立った。人気がないことから乗車券を専用の箱に入れて通り抜けようとしたが、駅員室のカーテンの隙間から駅長が顔を覗かせていたことから聖明学園のことを尋ねてみることにした。だがバスはあるが夜まで出ないよとそっけなく答えてカーテンを閉めてしまった。白木は仕方なく外でバスを待つことにしたが、そこにやってきたのは学園からの迎えの車だった。運転手を務めていたのは学長助手の吉井教授で、退屈な長い時間を白木は他愛のない会話で潰すことにしたが、やがて奇妙な光景が目に飛び込んできた。事故車がそのままの状態で放置されていたのだ。そのことについて尋ねると、二日前に酔っ払い運転のトラックを避けようとして事故を起こしたと吉井は言った。運転手、同乗者ともに即死だったが、その同乗者が学長夫人だったと聞いてぞっとした。しばらくして学園に到着すると、白木は学長宅に案内された。出迎える学長に彼はお参りさせてほしいと願い出たが、ほんの少し前に地下室で夫人の仮埋葬を済ませたばかりだと言った。この土地の古い習慣で、通夜を終えて荼毘に付す前に再び蘇るかもしれないという願いを込めて七日間遺体を安置しておくのだという。それを聞いて寮に戻ろうとした白木に学長は今夜ここへ泊ってもらうと言った。学長はブランデーを注ぎながらこの学園について話し、就任の乾杯をした。そして次期学長に考えていると話すと、僕にはそんな資格がないと白木は答えた。すると学長は、私には長年の持病があって学園にほとんど出られないことから後継者となる人物を探していたと言った。そして今夜この屋敷に泊まるのは、君という人物をよく知っておきたいからだと続けた。戸惑う白木に学長はブランデーのお代わりを勧めた。

深夜、黄色い薔薇が飾られた屋敷の一室に泊まった白木は、何処からともなく聞こえてくる女性の歌声で目覚めた。窓を叩く風の音ではないことを確かめるとその声の在り処を求めて部屋を出た。廊下を進んで行くとその先にそれらしき部屋があり、扉を開けると無残にひび割れた鏡が彼の顔を映した。さらに奥へ進むと窓際にネグリジェを着た女性が背を向けて立っていた。振り向いたその女性が胸から血を流していたことから近づいて話しかけたが、牙をむいた別の女性が彼の背後から現れ掴みかかられた。驚いて部屋を飛び出した白木だったが、廊下で挟み撃ちに遭い頭を殴られて気を失った。鳥の声で目覚めた彼は、ベッドから起き上がると頭痛に耐えながらあの部屋へ向かった。だが昨夜と様子が違うことで夢だったと思いこむことにしたが、牙をむいたあの女性に見覚えがあった。そこで暖炉の部屋に飾られた肖像画をもう一度見直すことにし、確信した。あれは間違いなく学長夫人だったのだ。もしそうであれば安置されている夫人の遺体はないはずだ。そう考えた白木は地下室に降りて確認することにした。

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