須川プロダクション=ATG
配給:ATG
製作年:1977年
公開日:1977年3月15日
監督:須川栄三
製作:須川栄三 藤井浩明 西村隆平
原作:井上ひさし
脚本:白坂依志夫
音楽:服部公一
撮影:逢沢譲
美術:竹中和雄
録音:太田六敏 宮下光威
照明:福富精治
編集:黒岩義民
助監督:近藤明男
記録:米山久江
スチール:ケン影岡
振付:中川久美
出演:緑魔子 美輪明宏 小松方正 なべおさみ 佐藤蛾次郎
アメリカンビスタ カラー 102分
人間の生命に関係のない病気の中に「吃音」があるが、言葉の病であるその吃音が原因で心に深い傷を受けている者は少なくない。この病によって自尊心や虚栄心を傷つけられ、果ては自分自身をすっかりダメにしてしまった者を数多く知っている男は約十年間、アメリカにあるアイオワステート大学文学部言語病理学科で助教授として吃音治療の研究に専心した。そして母校である東京大学に教授として戻ってきた彼は研究成果を演劇という形で発表することにした。吃音は自分自身に関係がなければないほど症状が見られないことがあり、例えば他言語でしゃべったり歌を唄うときには何事もなくこなすことが出来る場合もある。そこで男は患者自身にセリフをしゃべらせ、芝居をさせ、歌を唄わせることによって苦しみから解放するために演劇を行うことにしたのだ。この療法を研究者たちはアイオワ方式吃音療法と呼んでいた。
吃音は患者によって発症するタイミングが違った。例えば38歳の会社員の男性の場合、東大、紅丸商事とエリートコースをまっしぐらに進んでいたが、某国戦闘機の受注をめぐる世界的な大規模汚職事件「ドーナッツ事件」で参考人として検察庁から取り調べを受けた。その際の答弁で知らない、記憶がないと押し通したが、それが精神にショックを与え自殺を企てたものの失敗。以後出世コースから外れ、会社に違和感を覚え始めた頃から発症した。愛国青年行動隊を主宰する50歳の男性は熱烈な天皇主義者だが、昭和21年の天皇の人間宣言にショックを受け発症した。プロ野球審判員の32歳の男性は、左投手の方が右投手よりも有利だと主張する野球狂の父親に無理矢理左利きに矯正された。プロ野球になったが惨憺たる成績でクビになり、それでも野球を諦めきれずセ・リーグの審判員となった。開幕戦で二塁塁審を担当することになった彼は盗塁死した走者に対してアウトを宣告する際にどちらの手を挙げていいか戸惑ったことがきっかけだった。国鉄職員で両国駅改札係の43歳の男性は三人の娘が次々と大病を患いノイローゼになった。経済的にもどん底となりそれゆえ改札口で切符改札中に乗越し料金80円をくすねてしまったことから、それ以来80円と言う時だけ症状が出るようになった。それが嫌でたまらない彼は80円と言うべきところを70円と言い、その度に10円の損をした。給料からその分を弁償するはめになり、たださえ生活が苦しいのに積み重なった10円が更に重く伸し掛かった。元少女歌手は悪いプロダクションにスターにしてやると騙された。土地成金の父親は娘のためにと田畑を売り払って一億円もの大金をマネージャーに渡したが、その金を持って消えた。唄う時には問題ないが、日常会話に支障があった。その他にも個性的な患者が十数名いるが、主役を演じるのは元浅草のストリッパー・ヘレン天津だった。これは彼女の半生を患者全員で作り上げる演劇なのだ。
屋台的映画館
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