オブスキュラ=東北新社
配給:オブスキュラ=東北新社
製作年:2013年
公開日:2013年2月23日
監督:樋口尚文
エグゼクティブ・プロデューサー:樋口久美 嶋元勧治 小坂恵一
プロデューサー:蔵原康之
アソシエイト・プロデューサー:菅正剛 鈴木伸英 松本学 白石信彦 坂野かおり
脚本:樋口尚文 港岳彦
音楽:菅野祐悟
撮影:町田博
照明:津嘉山誠
美術:部谷京子
録音:益子宏明
編集:山本憲司
音響効果:小森護雄
ライン・プロデューサー:井上淳
助監督:根木裕介
製作協力:ティーエフシープラス オムニバス・ジャパン ヒューマックスシネマ
出演:秋吉久美子 小山明子 水野久美 竹中直人 佐野史郎
アメリカンビスタ カラー 112分
震災後の検査で耐震性に問題があることがわかり取り壊されることになった、東京・銀座の中心部にある老舗の映画館。ここでは世界の名作からB級映画まで平等に上映していたことから幅広いファンに支持されていた。閉館となるその日までいつもと変わらない接客を心掛けている支配人のクミコには親子ほども年の差がある絵描きの夫・ショウタがいるが、納得行かない閉館命令とスランプで描くことが出来ないと嘆く夫へのイライラでつい母親のように強く叱ってしまうのだった。
休憩(インターミッション)
上映を待つユリコに声を掛けてきたのは義妹のヨーコだった。狭くて暗くて息が詰まるという理由で映画館が苦手だというユリコ。そんな彼女が頻繁にいることをヨーコが不思議がっていると、アレが怖いのよとその理由を打ち明けた。アレとは原発事故で放出された放射能だった。それを聞いて笑い飛ばすヨーコ。何故ならこの映画館は核シェルター替わりどころか雨漏りするほど老朽化しているからだ。どうやったら逃げられるのよとユリコが尋ねると、大変なことになったら北の最果てに行こうが南の島に行こうがどこまでも飛んでくるとヨーコは答えた。どこまでも追いかけて来るのは若い頃のうちの亭主みたいとユリコが笑うとヨーコはあきれた。別れた男ののろけぐらい不毛なものはないとヨーコが釘を刺すと、ユリコはどうしておたくもうちも亭主が消えたのかしらと皮肉った。みんな自分のことしか考えないのだから、いっそ日本が滅んで心を入れ替えなきゃダメよ。ユリコが最近起こった連続爆弾魔ヒグ・ボマーの話題を出すとヨーコの目の色が変わり、「むしろやってみる?」とバッグから古びた冊子を取り出した。年の離れた兄さんが昔ヤバい友達からもらったというその冊子の表紙には「腹腹時計」と書いてあり、それを見た途端ユリコは何でもっと早く知らせてくれなかったのと叫んだ。意気投合した二人は上映が始まる前に映画館を後にした。「本日の上映 ミケランジェロ・アントニオーニ監督 「砂丘」 1970年」。
休憩(インターミッション)
上映終了後も作品の余韻に浸っていたナツキは、この映画を紹介してくれたアキコに感謝した。二人は女優で、ナツキは以前アキコの付き人をしていたこともあり何でも打ち明けることが出来る間柄だった。昔は気に入った映画を何度も観たが、自分が出ている映画だけは観なかったとアキコが言うと、大スターだったから忙しくて時間がなかったんですねとナツキは頷いた。するとアキコはそれを否定し、自分の演技の粗ばかり見えて楽しむことが出来なかったのよと言った。テレビドラマや舞台だと台本読みや立ち稽古があって流れがつかめるが、細切れで撮る映画で一貫した感情を表すのは本当に難しい。だが昔出演した映画を最近改めて観直すことでその細切れの中に自分が生きていることを見つけ、ある映画と別の映画の自分が一続きに見えてくることさえあった。そして100本近く出演した映画大陸にはその時代の自分が生きているのだ。しかし映画が一人の女優の人生を変えてしまうこともあることから、ナツキが女優になると言ったときにアキコは反対したのだった。女優には役と現実の区切りがないことから、現実に家庭を持ってそれを軸にした方がいいのかもしれないとアキコが言うと、私には何十年も愛しているが結婚出来ない人がいるとナツキは言った。そしてもう一度付き人に戻りたいと告白した。「本日の上映 ジャック・ドワイヨン監督 「ラ・ピラート」 1984年」。
屋台的映画館
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